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―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』14

last update 最終更新日: 2025-01-20 17:48:55

その夜。

俺は赤坂の家に押しかけた。

手にはハンバーガー十個入った袋をぶら下げて。

タバコを吸っている赤坂の目の前に座る。

「相変わらず、汚い部屋だな」

「あ? 俺の勝手だろーが」

「食う?」

「サンキュー……って、その量を二人で食べるつもりか?」

テーブルにハンバーガーをどんどん置くと目を丸くした。

「やけ食いか。リュウジがやけ食いする時は何かあったってことだもんな」

見透かされて少し恥ずかしい。付き合いが長いと分かるのだろうな。

無視をしてハンバーガーにかぶりつく。

「そんなに食うと体重増えるぞ」

「…………」

「で、どうしたんだよ?」

赤坂が俺の顔を覗き込んでくる。

コイツは俺様キャラだけど、優しいところがあって話しやすい。

大樹は大樹で優しいのだが、今日は赤坂に話を聞いてもらいたかった。

「芽衣子に浮気された」

「へー。あの大真面目な芽衣子さんが?」

赤坂は疑っているようだ。

「合コンに行かれたんだ……。ありえない」

「何か思うところがあったんじゃねぇの?」

「ま、実はさ……」

俺は芽衣子との間にあったことをひと通り話した。

「……それ、浮気じゃないだろ」

「え?」

「芽衣子さんは、リュウジと別れたつもりでいると思うけど」

ただの喧嘩じゃなかったってこと?

芽衣子はもう、俺の芽衣子じゃないのか?

ふざけているのかと思ったけれど、真剣な様子を思い出し、そうなのかと納得する。

「どうしよう」

「年齢だって年頃なんだし、結婚したいのは当たり前だろ?」

「……まあ。でも、大樹に続いて結婚なんて普通は無理だろ。俺と赤坂が大樹の恋愛を過去に邪魔したから、今回は祝福してやりたいんだ……」

「たしかにタイミングはある。祝福してやろーぜ」

「ああ」

「でも、芽衣子さんを安心させてやれないのは、リュウジに問題がある」

ごもっとも。

正しいことを言われてどんどん落ち込んでしまう。

「でも、まぁ……他の女にも目を向けてみたらどうだ?」

「無理」

「なんで地味な事務員なんかがいいわけ?」

「ビビッと来たからだよ!」

ふんっと鼻で笑って「バカだな」って言われた。

しばらく無言でハンバーガーを食べながら、芽衣子とのはじまりを思い出していた。

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    「妹が置いていった服ならあるけど。サイズ合うかな」「勝手に借りていいのかな?」「心配なら聞いてやるか」スマホで電話をはじめる。「あ、舞? 久実に服貸していい?」『えー! 家にいるの? 泊まったってことは、えーなに? 付き合ってるとか~?』ボリュームが大きくて話している内容が聞こえてしまう。「付き合ってくれないけど、まぁ……お友達以上だよ。じゃあな」お友達以上だなんて、わざとらしい口調で言った赤坂さんは、得意げな顔をしている。「……じゃあ、お借りするね」黒のニットワンピース。着てみるとスカートが短めだった。ひざ上丈はあまり着たことがないから恥ずかしい……。着替えている様子をソファーに座って見ている。「見ないで」「部屋、狭いから仕方がないだろう」「芸能人でお金もあるんだから引っ越ししたらいいじゃない」「結婚する時……だな」その言葉にドキッとしたが、平然を装った。私と……ということじゃない。一般的なことを言っているのだ。メイクを済ませると赤坂さんは立ち上がって近づいてくる。見下ろされると顔が熱くなった。「可愛い。またやりたくなる……」両頬を押さえつけたと思ったら、キスをされる。吸いつかれるような激しさ。顔が離れる。赤坂さんの唇に色がうつってしまった。「久実……愛してる」……ついつい私もって言いそうになった。「せっかく 口紅塗ったのに汚れちゃったじゃないですか」 私はティッシュで彼の唇を拭った。 すると 私の手首をつかんで動きを止めてまた さらに深くキスをしてきた。「……ちょっ……んっ」「久実、好きって言えよ」「……時間だから行かなきゃ」

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』78

    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

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